![]() |
| 「パソコンの中の文字文化」 − 2001年2月26日 掲載 |
若者を中心に、パソコンの画面や印刷に使われるフォント(書体)に凝ることが静かなブームとなり、書体専門のデザイナーを志す人も出てきているという。これまで、明朝体やゴシック体といった冷くて画一的な印象のある活字体ではなく、少しでも温か味のある個性的な仕上がりに価値を求めるようになっている。 昨今の流行は、デザインとしての美しさや機能美を追求しようというのではなく、子供が書いたような書体や人間的な味を込めた手書風の文字が人気を集めているそうだ。3、4年前に、いわゆる“まる文字”という書体が女子高生の間で流行ったことがあるが、その流れに似ている。自分の手書文字をさらけだすのが怖くて、さりとて普通の活字体では人並みだからとパソコンという名の“代書屋”に出すようなもので、変身願望の趣もあるのだろう。 パソコンという、ややもすれば無味乾燥なイメージのある世界で、文章ズラを少しでもソフトに楽しくするため、顔文字やスマイリーなどと呼ばれる文字を文章に入れ込んで、活字の中に感情を入れる工夫をする人もいる。雑誌などのメールの入門特集では、必ずといっていいほど作り方に触れている。仲間同士の私的なメールならまだしも、ビジネスのメールで使ったりすると悪ふざけと勘違いされるから、気をつけないといけない。 すでに年賀状やグリーティングカードなどでも、写真や絵柄などのデザインに力いっぱいの工夫を凝らす人は多い。取引先に送るビジネスライクな年賀状でも、書体にひと工夫して、宛名書きは教科書体や草書体を選んで縦書にしないと年賀状の雰囲気が出ない。 グーテンベルグの「四十二行聖書」では、本文は活字印刷だが、各ページの回りの余白には彩色に凝った手書きの花文字の見出しや唐草模様などが描かれていて、彩りを添えている。アラビア語圏には書道のように、コーランの一節などを竹ペンなどで書いた“カリグラフィー”と呼ばれる文字文化がある。我々には、動物のトラかシマウマの毛並み模様程度にしか見えない文字なのだが、カリグラフィーは本の表紙やタペストリーなどで日常的に使われている。本の表紙や題字などに使われるドイツ語の古典的な「亀の子文字」も、鳥の羽根で作ったペンで文字を書いていた時代の落ち着いた味わいと高級感が伝わってくる。 そもそも印刷物であれパソコンであれ活字文化というものは、活字のひとつひとつを繋げていって文章を作るのだから、仕上がった文章は書体の集合とも言える。時は、IT革命・ブロードバンドの時代。文字の書体のデザインに満足せず、墨痕鮮やかな濃淡や続け文字や、英文の手紙のような筆記体などはできなものだろうか? 書体を組み合わせ、文字間隔の長短にリズム感を盛り込んだ自然なフレーズが表現できるような、いわば“句体”をぜひ開発してほしいと思うのだが、どうだろう。 ただパソコンの世界では、送信した人がいくらデザインを施した個性的な書体の文章をネットワークで送っても、相手のパソコンにも同じフォント環境が整っていなくては同じ書体の文章が再現できないというのは困ったものだ。電子出版のサービスをしようと新しく書体を開発しても、サービスを受ける側では文字化けして読めない可能性がある。 若者がフォントに関心を持ち始めているということは、パソコン環境に文字文化を育てるという観点からすると喜ばしい。人気を呼んでいる今風の書体は、いわば手書文字と活字の美意識の融合とも言えるだろう。ただオジサン世代の一人としては、文字の字ヅラに頼ってコミュニケーションをするのではなく、視覚の世界を越えて、ぜひ文章表現そのものの技も磨きあげてほしいと願うのだが・・・・。
|
| HOME / トップへ戻る / 新しい記事へ / 過去の記事へ |