「IT革命と携帯電話の普及の本質(その1)」 − 2001年3月5日 掲載
 

 ブロードバンドネットワークの本格化に明るい兆しが見え始め、また第3世代携帯電話(3G)の実用化が目前に迫ってきた。情報通信に関する商品やサービスが普及するには、それらの機能や料金がユーザーに受け入れられていることや「流行っている」といった表面的要因のほかに、消費者がそれらを受け入れ事業が成功するに至った表面化しにくい社会的背景や土壌がある。

 インターネットの利用の仕方の成功例として必ずといっていいほど引き合いに出されるのが、米国のオートバイテルという中古車販売の仲介ネット事業者の例だ。

 アメリカ人が人生を通じて最も不愉快なことを挙げるとしたら、第1に離婚問題、第2に車の購入だという。車社会の国でありながら、車を手に入れることは実に不愉快なのだそうだ。ディーラーのセールス担当の態度が悪い、間違いが多い、商品知識が乏しい、連絡がない、何かにつけて事務処理に時間がかかる・・・・などと言われるが、怒りを覚えるのは1台の車を手にするのに2度や3度ではすまないのが普通だといわれる。とりわけ女性にとっては、車を買う時だけではなく、手にした何か月後でさえも身の危険を感じることがあるという。

 インターネットを使えば、パソコンを相手に指定の内容を入力しさえすればOKで、その不愉快さから解放されるから、多くの人にとって大歓迎というわけだ。

 日本のIT化が遅れている象徴的な表現として「韓国にさえ遅れている」とメディアは語る。その韓国のIT化が急激に進んだ要因は何か? 97年の経済危機で韓国がIMFの管理下に置かれたため、企業が構造改革を敢行し多くの技術者が“IMF失業者”となってしまった。加えて政府も大胆な規制緩和や振興策を打ち出した。その結果、彼らは転職や独立をして、少ない投資で短期間のうちに起業化する必要に迫られ、IT分野に多くの優秀なソフト技術者が進出し、活況を呈することになった。

 IT関連事業で起業化した場合は税制上の優遇措置が与えられることもあるが、若者にとっては、徴兵制が免除されることの魅力が大きいという。また政府は住宅政策の一環としてソウル郊外に大型の高層住宅を大量に建設し、しかもADSLなどのブロードバンド回線を入居時から使える設計にした。政策としての先見の明があり、それが短期間のうちにブロードバンド先進国を築く原動力となった。

 IT分野におけるインドの急成長は抜きんでいる。「ゼロを発見した国」だとか、「日本の小学生が算数で九×九を学ぶのに対して、インドでは九九×九九を暗唱するため、子供の頃から計数感覚が鍛えられている」などとメディアでは紹介されている。理由はそれだけだろうか?

 インドの人は、古くからあるカースト制で一生の運命が決定づけられ階級制度の呪縛から逃れることができない。このため低カースト層にある若者は、IT関連の分野の起業を目指し、成功して低層から抜け出そうとする挑戦が高まった。そのためIT成功者を目指す若者が増えている。しかも、91年に打ち出された経済改革路線が効を奏し、また多くの国民が英語が使えることから、海外に留学する若者も目立ち始めてITの発展を加速した。

 日本では、アスクルというオフィス用品をインターネットで市販する企業が伸びている。そのサクセスストーリーを追う企業も多い。インターネットで注文すれば、商品が「明日には来る」からアスクルと名づけられたとおり、そのスピードこそが成功のビジネスモデルであると説明されることが多い。しかし、それ以外にも伸びている社会的背景があるようだ。

 最近、オフィス街を中心に文房具店が減っており、しかもオフィスで必要とする無数の事務用品を揃えることは、店舗のスペースの点から困難になっている。しかも、企業は間接コストの削減に躍起になっており、人員を極限にまで減らしたから、必要になった時に文房具店へ買いに走る余裕すらなくなっている。加えて、アスクルのカタログにはカップラーメンなどの夜食からお茶葉、不祝儀袋まで、30人程度の小規模オフィスで必要とされる一切合財が用意されている。次の日にでも手元に届けてくれるアスクルは重宝なのである。

 しかも、月末に明細書とともに請求書が送られて来るから、手許現金の収受や立替の精算、領収書やレシートの整理などが極めて簡単になり、経理処理が大幅に楽になる。言い換えれば、一般購入事務のアウトソーシング化を助ける役割を果たしているのである。つまり「早く来る」という直接的なメリット以外に、そのビジネスを多くの企業が受け入れる「秘めたる事情」があるのだ。

 今回は、IT化が急激に進行した社会的背景や環境について述べたが、次回は携帯電話が普及した背景に触れることにしたい。

 
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