「IT革命と携帯電話の普及の本質(その2)」 − 2001年3月12日 掲載
 

 昨年11月に郵政省が発表した「移動通信事業の動向」によると、相変わらず北欧諸国の普及率が高い。中国の人口があまりにも多いから普及率は2%と低いが、開放政策以降、沿海地区を中心に急増しており普及速度は目覚しく、台数ベースで現在世界第2位の日本を追い越す日も近い。

 移動電話の対人口普及率を見ると、上位3位までをフィンランド、ノルウェー、スウェーデンなどのノルディック諸国が占めている。特にフィンランドでは6割を超えていて、その理由も種々語られる。

 つまり、「公衆電話を掛けるために車外に出るのは寒いから」「セカンドハウスやプレジャーボートを持っている人が多く、複数の電話番号を持つと知人などに迷惑をかけるし、維持費も高くつくから」「新しい商品などにすぐに飛びつき、積極的に取り入れようとする国民性がある」「スカンディナビア半島には岩場や湖沼が多くて、有線系の通信インフラを構築するのにコストがかかるため携帯電話などの無線系のインフラが発達したから」「共稼ぎをしている夫婦が多く、子供にも携帯電話を持たせている人が多いから」・・・・などと語られている。

 かつてのフィンランド経済は旧ソ連への輸出で支えられていた。しかし、ソ連が崩壊したことによって頼みの販路が断たれてしまい、国家財政が窮地に陥ってしまった。そのため、政府は国営企業を売却して財源を確保し、ノキアなどのハイテク産業を助成するなど、国をあげての支援策を推進してきた。今では携帯電話を持つ人が増えていると同時に、家庭でもオフィスでも固定電話を持つのをやめて、携帯電話だけにしている人が増えている。

 所得税率の高い北欧諸国では、従業員の給料を少しくらい上げたり奨励金を出しても社員の懐にはメリットが少ない。それで、企業などでは給料を上げる代わりに、インセンティブとして携帯電話を支給したり通信費などの一部を負担している例が多い。つまり、企業の福利厚生(フレンジベネフィット)政策として携帯電話を利用していることが、普及の大きな背景にある。

 携帯電話の普及台数では、最初からアメリカが第1位を走っている。普及している理由をみると、今でこそ日本と同じように若年層や女性層が牽引しているが、数年前まではセキュリティ目的で持つ人が多かった。人里離れた地域の道路や夜間に、車が事故を起こしたり故障した時など携帯電話だけが救いの神となる。

 アメリカのFCC(連邦通信委員会)は非常時に備えて、携帯電話を使って位置を特定し伝送するE911(Enhanced 911)と呼ぶプロジェクトをスタートしようとしている。「911」とは、日本の「119番」と同じような救急の電話番号を指す。位置情報を伝送するには、GPSなどの測位システムを端末側に内蔵する方法や、複数の基地局で受信した端末からの信号を双曲線法などで計算して位置を基地局側で割り出す方法などが考えられている。

 車が故障した時、「今ここにいるゾ! すぐに来てくれ!」と叫ぶとともに正確な位置データを伝送することができ、救急車や修理サービス車が素早く現場に駆けつける時に効果を発揮する。国土が広大であるがゆえに車の故障対策は切実な問題で、携帯電話の新たな市場でもある。

 香港や台湾の携帯電話の所有率も高い。「従業員が副業に熱心」というのも理由の一つだ。従業員は勤務時間中にも外に飛び出して証券会社などに電話を入れて、街角から株価の動きを聞いたり売買をする人が多い。日本でも、iモードなどのインターネット接続型携帯電話を使って、仕事中に株をやっている人が増え始めているとの声も聞こえてくる。香港や台湾では転職する人が多く、転職のつど「電話番号が変わった」と得意先や友人に連絡するのは大変だ。それで自分の携帯電話を使って番号を変えずに転職し、“上得意”を逃がさないようにチエを絞っている。

 日本では、特にインターネットに接続できる携帯電話の伸びが著しい。「今、何してる?」などの他愛のないメッセージ交換が若者達の仲間内で行われている。むろん、外出中の営業マンが商談の経過を刻一刻と伝えるなど、業務改善を始めとしたビジネス用途への使い方が広がっているものの、やはり中心は“仲間つくり”や“友達関係の維持”といえるだろう。

 もし携帯電話を持っていないと仲間外れにされてしまうから、携帯電話を持たざるを得ない。会議中でも映画を見ている間でも、メールを受けたら一刻も早く返事を送らないと絆が切れてしまう・・・・という一種の“強迫観念”がみてとれる。ここには、本来の「コミュニケーションの道具」とは違った日本ならではの特異性がある。

 日本の携帯電話の通信料を諸外国と比較すると、極めて高い。「ネットワークの利用料を定額で安くするのが、IT革命を進める上で最優先する必要があり、そのためには思い切った規制緩和を1日も早く実施すべきだ」と、著名な評論家先生方は判でついたようにおっしゃる。 もちろん筆者も利用者としては、一刻も早くもっと安くなることを願うのだが、急激に普及してトラヒックが増加すると周波数がパンクしてしまうという無線通信サービス固有の深刻な問題があることを忘れてはならない。

「周波数が収容能力の限界に来るのを少しでも先送りしたい」という事業者の胸の内もあるはずだ。だいいち「ケータイ代が高い高い」と文句を言いながらも、普及台数は上昇の一途を巡っているのだから、値段を下げる理由の決定打に乏しい。

 一般的に商品やサービスの市場分析をする場合、それぞれの機能や価格、他社の動きやシェアの分析に力を入れることが多い。しかし、それらを受け入れる社会生活や経済活動といった背後の環境やその本質、将来への変化の方向を見極める心眼を開きたいものだ。

 
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