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| 「メディアのスローファイアーとアーカイブ」 − 2001年3月19日 掲載 |
「我が子がハイハイしている姿をビデオに撮って、子供がお嫁に行った時に持たせてやるんだ」と、お父さんが大金を叩いて機材を揃える光景は、家庭的でほほえましい。しかしここに、メディアの「スローファイアー」(Slow Fires)、つまり「年月とともに情報が蝕まれ、やがて消滅してしまう」という、データの経時変化の深刻な問題が横たわっている。 子供が大きく成長して、無事ビデオテープが残っていたとしても、そのテープが、貼り付き(カセットに巻き取ったテープが湿気などで貼りついてしまうトラブル)や、映像信号が保存環境からの影響を受けて減磁や転写という現象を起こしているかもしれない。それより何より、再生機(つまりVTR)が残っているかという問題がある。VTRを大切に保管していたとしても、20年後に使っているモニターテレビの端子に合うケーブルが残っているか・・・・という問題もある。 筆者も、高校や大学時代に使っていたオープンリール式のオーディオテープを何十本も大切に保管しているのだが、その再生機(つまりテレコ) は、阪神大震災後の混乱時に誤って廃棄処分をしてしまった。また10年以上前に会社で使っていたワープロの8インチのフロッピーを10枚あまり保管しているのだが、再生できるワープロがない。5インチのフロッピーが使えるワープロは1台だけ残っているが、使っている人が少ないため資産管理担当から廃棄処分の指示が出ていて、余命いくばくもない。 先日、富士通のワープロのOASYSで作成した5インチのフロッピーをチェックしていたところ、探し回っていた資料が記録されていることを発見し、早速MSWordに変換することにした。そのプロセスは、OASYSで5インチのフロッピーを3.5インチのフロッピーに変換し、それをパソコンに掛け、ロータスのOSに入っている変換ソフトでLotus WordProというワープロ様式に変換し、それをMSWordに変換した。これでフォーマット変換の問題は一息ついた。OASYS様式のフロッピーを持っている限り、ロータスは手離せない。 スローファイアーという言葉は、図書館に保存された蔵書の紙の繊維が酸化してボロボロになることが表面化して使われ始めた。今では、フロッピーなどに電磁的に保存されたデータの保存も問題にされている。会社の歴史として記録保存する資料や個人の思い出に関する資料なら、紙に打ち出しておけば、再生機やフォーマット変換の悩みはいらない。やっぱり“紙が一番”なのかなぁと思ってしまう。 「アーカイブ」(保存)という言葉を、メディアの世界でもしばしば耳にするようになった。埼玉県川口市に「NHKアーカイブス」の建設が始まって、映像ソフトの保存が本格化したことから、関心が以前に増して高まっている。図書館や博物館などの分野では、100年、200年後、あるいはそれ以上の期間にわたって蔵書などを保存することが議論されている。最近では、データを一時保管するという意味でも使われ始めた。 新しい技術や規格の誕生は、すなわち、既存の技術や規格の寿命が尽きる時が迫っていることを意味している。たとえば携帯電話など、日常的にその恩恵を蒙っている情報通信サービスも、技術革新によって既存のサービスがいつ消滅するかも知れない。ディジタル方式の携帯電話であるPDC方式も、近く商用化されるIMT-2000方式(3G=第3世代携帯電話)が定着すると、いずれ消滅する憂き目に遭う。ただ、情報通信サービスでは社会的影響が大きいから、普通はいわゆる“巻き取り”と呼ばれる移行期間が何年もあり、現実的には急に使えなくなることはない。 アーカイブは、メディアの寿命、再生機器の寿命、技術規格の寿命の3つの視点から取り組まなくてはならない。ディジタル化時代になるとともに、おびただしい量の情報が電磁的に保管されている一方で、スローファイアーの危機も迫っている。技術革新が人々に数知れない幸せをもたらす一方で、次々と登場する新技術による既存技術の陳腐化とメディアのアーカイブの問題は、今後ますます深刻になる。その意味で、絶滅の危機にあるのは動物や建造物だけではなく、知的遺産も例外ではないといえるだろう。
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