「ユビキタス時代の周波数割り当て」 − 2001年7月23日 掲載)
 

 移動電話の加入者が劇的に増えるのに伴って、周波数不足が深刻な問題になっている。将来は、テレビなどの放送や固定通信に使われている周波数帯域を移動体通信に利用しようという計画も進んでいるが、しばらくは苦しい日々が続きそうだ。

 ここで、現在、移動体通信用として使われている周波数帯域を、より有効に運用する2つの方法を提案したい。

 周波数は現在、例えば携帯電話の端末用や基地局用、そのほかコードレス電話用、業務用、タクシー無線用、警察無線用、漁業無線用、放送用・・・・・などという具合に、用途ごとに細分化して割り当てられている。

 ここにひとつの問題がある。つまり、携帯電話やPHSといった移動電話の加入者が急増して、「周波数が足りない」と事業者が悲鳴をあげている。繋がりにくかったり通話中に切れたりするなど、サービスに支障をきたしている。

 他方、火災や災害といったイザの時には、消防、警察などの公共業務用の無線通信機器は他の何よりも優先して対応できる必要があり、「回線が込み合っていて連絡が取れなかった」では許されない。そのため、それらに割り当てられている専用周波数は、ピーク時の通信量(トラヒック)を想定しているが、幸いにも災害などが頻繁に発生するわけではない。したがって、この帯域は平常時には空いているわけだ。

 一般の業務用無線機の周波数は、「月末の金曜日の夕方に使えないと業務に支障が出るから」などの理由で、用途毎にピーク時に備えて余裕を持って割り当てられている。他方、周波数はある意味で“利権”の世界だから、利用者は少しでも多くの周波数を確保し、さらに確保した周波数の利用効率が低くても“既得権”として自分の領分を守り、手放さない傾向がある。これでは、周波数がいくらあっても足りない。

 周波数の利用度は、おおむね人口密度に比例している。つまり人口密度が抜きん出て高い東京の都心部では平静時でも利用率が高く、緊急事態が起きれば対応不可能とも言える状況にある。とはいえ、東京のごく一部の地域以外では、平静時には比較的ゆとりがある。

 ここでまず提案したいのは、これらの矛盾を軽減して、少しでも周波数の有効利用を向上しようという考え方だ。つまり、「ある帯域幅の共用周波数帯域を設けておき、平静時には通常の移動電話や一般業務用として運用する。災害などの有事、緊急事態などが起きて災害救助法が適用されたり知事の要請が出た時には、所定のルールの下で移動電話事業者のサービスを規制し、公共業務用を優先的に運用することを前提としたシステム」を作ろうというわけだ。

 これは、いうまでもなく「現在の移動電話の周波数の一部を公共業務用に明け渡して、共用帯域にする」ということではない。将来、固定網や放送のディジタル化によって新たに得られる周波数の一部を、共用周波数帯域として割り当てるという意味だ。

 例えば道路という公共のインフラを見ても、日常生活用や運送事業者用、警察や救急車などの緊急自動車用などと用途別に分かれているわけではない。パトカーや消防車などが走行する場合や、マラソン、要人の搬送などをする際には、一時的な交通規制を行い、緊急自動車以外の一般車はそれに従う義務を負っている。

 電力やガス、水道、鉄道、有線通信などのインフラを見ても、「業務用」と「日常生活用」と明確に分かれてはいない。発電所も電線も、鉄管も、レールも電話線も共用されていて、末端にいる利用者や用途が異なるだけだ。つまり一般生活用も業務用も、緊急用も同じインフラを共用している。これらのインフラの運用形態を、周波数割り当てにも適用しようという発想だ。

 さらに一歩進んで提案したいのは、“共用ネットワークインフラ”を作って無線システムを一括して運用し、消防や地方自治体の防災機関、救急、また電力やガス、通信の事業者などに有償でサービスを提供する形態を採るという考え方だ。現に欧米には、携帯電話から業務用無線、放送、幹線網まで、無線システムを一括して運用する民間レベルの無線システムサービス会社があり、情報サービスの提供事業(例えば携帯電話)と無線システムの事業(例えば基地局の運用)とが分離した形態が採られている。この考え方を、日本にも採り入れることを真剣に考える時期に来ている。

 これらの考え方を導入すると、周波数の利用の平準化が図れ、設備と周波数の有効利用が実現できるはずだ。何事も、新たな発想を具体化するには、数多くの利害関係者から「ヤンヤ!」の反対意見が出るだろうし、障害もある。周波数の割り当てに関する国際的な取り決めが足かせになるケースもあり、容易に実現できるものではない。

 電波法ができて50年を過ぎている。この間、日本の無線通信環境は、あらゆる面で劇的な変化を遂げてきた。コミュニケーションの内容も「トン・ツー」に始まり、音声中心からデータ、静止画、映像へとニーズが変化し、より広帯域化が求められている。日常生活の向上のためにも、一日も早く周波数利用の発想の転換を実現すべき逼迫した状況にある。さらに信号形態もアナログからディジタルへと変化し、技術的に統合化が実現可能な環境が整っている。

 「ユビキタスネットワークの時代」を迎え、周波数需要がますます拡大している。周波数の割り当てや無線局の運用形態も、時代に則した弾力的発想を持ち込む必要があるだろう。個々の用途とインフラとが「セットの関係」になっている現在の周波数割り当ての発想を思い切って転換し、柔軟なインフラの運用形態を導入すべきだ。もはや、個々のサービスの領域のなかで最適化に向けて腐心するのではなく、サービス間の垣根を取り払い、社会インフラとしての電波利用の最適化を図るべき時代を迎えている。

 周波数割り当てのルールを根本的に方向転換する絶好のチャンスは、放送のディジタル化によって周波数が移動体通信に開放される時だ。この時に得られる“更地”のような周波数帯域を、既得権や周波数の奪い合いという“生臭い力関係”に流されるのではなく、いわば“都市再開発”のように将来の情報通信のあり方を見据えてグランドデザインを描かなくてはならない。

 
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