「“ITブレーン”の活用と組織改革の成否」 − 2001年7月30日 掲載)
 

 7月25日付の日本経済新聞の調査によると、「国内主要55社の2001年度の設備投資額は前年度比5%増であったが、情報化投資額は14%増で、IT活用を重点戦略として位置づけた経営革新が本格化している」という。

 かつて「ホワイトカラーの生産性向上が急務」とされ、「バスに乗り遅れるな」と世の流れに呑み込まれるように、各企業はOA機器を競って導入した時期があった。昨今、社員一人ひとりにパソコンやiモード端末を配布するなど、各方面で業務のIT化や組織改革を図る気運が高まり、“かつての時代”を再現するかのような様相を呈している。

ここで気になることがある。それは現実の問題として、投資効率の向上が十分に発揮され、成果が得られているのか・・・・・ということだ。企業の最終ゴールである収益の確保に、本当に結びついているのだろうか。

携帯電話や電子メール、インターネット、無線システムなどを使って、いわゆるIT化の一環として組織全体のコミュニケーション能力を向上させる場合、一般的に「パソコンや通信ネットワークのことを熟知している」とか「関心を持っている社員」を抜擢し、IT化の推進役を任せたりする傾向がある。しかしこれは、必ずしも好ましい結果を生むとは限らない。なぜなら、パソコンで文書を作成したり電子メールで情報をやり取りしたりすることと、複雑な業務組織と多くの人間(社員)を動かして、組織改革を図ることとは次元の異なる問題だからだ。

社内の業務や組織の改革は、ITのセミナーに参加して知識を得たり、設備投資をしてハードとソフトを整備すれば、まっとうできるものではない。ソフト開発などは、外部のメーカーやシステムインテグレータに委ねることも十分に可能だ。しかし忘れがちなのは、IT化を行なうには、経営方針に合致した組織改革方針を事前に確立し、関連するステークホルダー(利害関係者)の理解を得て、社内の意識のベクトルを合わせ、予算管理を行うなどといった、パソコンや通信の知識ネットワークとは異なった多くの過程が不可欠であるということだ。

例えば、体質改善キャンペーンや提案制度、TQC活動、社員教育、ISOの認定、危機管理などでは「トップがみずから率先して取り組まないと成功しない」と言われる。いうまでもなく1人のトップマネジメントが、本来やるべき企業経営に従事しながら、新たに組織改革や意識改革、新規事業への参入などの旗を振ることは容易ではない。10人以下の小規模組織といったところでは、トップの意向で如何様にでもなるだろうが、100人を超す組織ともなれば、組織全体に改革の意思を浸透させ、新しいシステムを積極的に受け入れる環境を醸成させるという困難な作業を担うことは、トップ1人には負担が大きすぎる。

組織改革は多くの場合、構成員(社員)に対して異動や出向、長年馴れ親しんだ仕事の手順変更、仲間との別離、引越し、子供の転校、生活環境の変化、家族との別居など、公私にわたってさまざまな変化を強要する。したがって、改革が大胆であればあるほど、社員の不安が大きくなるのは必定であり、反対勢力の抵抗や台頭は避けられない。

そこで必要になってくるのは、優れた「ITブレーン」(頭脳集団)とも呼ぶべきプロジェクトチームを社内に、あるいはアウトソーシングとして確保し、活用する・・・・・ということだ。ハードウェアやソフトウェアなど、システム自体の構築・運用はシステム部門に全面的に任せ、ITブレーンは組織内に向けてのメディアを活用して意思統一を行うなど、改革が円滑に推進されるよう環境作りに専念する。彼らは経営組織の役割を十分に認識するとともに、ITやコミュニケーションネットワークの技法に関しても熟知している必要がある。経済環境が複雑になるにつれ、ITブレーンが具備すべき資質は広範囲化している。

むろん、経営責任は最終的にトップマネジメントが負うとしても、ITブレーンは行動科学的観点から取り組み、“影の演出者”として振る舞う。トップ自身が先頭に立って強力に推進すると孤立無援に陥ってしまう可能性があるから、彼らを巧く活用して計画を進めなくてはいけない。ITブレーンとトップは、一心同体となって双方が信頼し合って動く立場にいなくては、その機能をフルに発揮することはできない。しかも、成功させたいとの信念に燃えた立ち回りが不可欠だ。

「軍隊式命令」に従う過去の時代、社員は“号令”だけで動いてくれたが、個性尊重の現在では組織を統率することがますます困難になっている。経営者個人のやる気や勢いだけで組織は動かなくなっている。社内の組織改革に際しては、トップマネジメントの大胆な意思決定とともに、彼らITブレーンの役割を充分に評価し、いかに活用するかが、その成否を決定付けることを認識すべきだろう。

 
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