「既存ネットワークの高度利用にも注目を」 − 2001年8月6日 掲載)
 

 移動電話というより、もはや“移動メール端末”に変身しているケータイだが、大学新入生や新入社員が固定電話を引かずにケータイだけを持つのは常識化している。また、イベントや選挙事務所、仮設店舗など「固定電話を置くには利用期間が短くて効率が良くない」といった、一時的用途としてケータイしか使わない例も増えてゆくだろう。しかし「この先に、限界需要が見え始めた」との声も聞こえてきそうな状況で、長期的に急成長を望むのは、楽観的過ぎる。

 将来の業界発展のためには、今から“次なる巨大市場”を見つけ、育てておかなくてはいけない。NTTドコモの立川社長は以前から、「将来は、バイクや犬・猫までもがケータイを持つ時代がやってくる」と述べておられるが、さて、どうなるものか・・・・・。

  業界が生き続けるための新たな道のひとつとして、私は“センサーベース・ケータイ”の分野を開拓していく必要があると考えている。オムロンは最近、「M2M」と称して「マシン・ツー・マシン」の概念を提唱している。インターネットを利用して機械と機械を繋いで、ディジタル情報の交換をしようというものだ。私の言う“センサーベース・ケータイ”は、これと類似した概念でもある。

 センサーベース・ケータイと言うのは、通話やテンキーでメッセージを入力するのではなく、機器などに取り付けたセンサーから得た情報を、移動電話のネットワークを介して離れた場所に送るという“テレメータ”としての機能や、逆に離れた場所の情報を携帯電話のネットワークを介して機器などに送り込んで遠隔制御する“テレコントロール”としての機能を持つシステム概念を意味している。

 情報の入力に人手が介入しないため、テンキーもマイクもスピーカーも不要で、「ネットワークシステムに組み込むための無線モジュール」と言った方が適確だろうか。ケータイと呼ぶには多少の抵抗は否めない。が、技術的にはケータイのインフラと無線端末のコアを発展させて使おうというわけだ。

 かつて私が、特定小電力無線設備の構内ページングの標準規格の技術検討に携わっていた頃、“センサーベースポケベル”の構想を主張したことがある。ビニールハウスの温度が設定範囲を外れた時や自動機がトラブルを起した時などに、自動的に離れた場所のポケベルに信号を送って敏速な対処ができるようにしようというものだった。例えて言うと、自動機を動かしたまま自分は近くの川で釣りを楽しんでいて、問題が起きた時には飛んでいけばいい。ポケベル自体の市場が冷え込んでしまったので、このような使い方は少なくなったが、今もって少数派ではあるが、地味に利用されており、重要な機能だと信じている。

 例えば、河川やダムの水位に異常が発生するなどの緊急事態時に、防災に関係する何十人、何百人に敏速に電話をして状況を伝えるのは大変な作業だ。そのような場合に簡単なメッセージを関係者のケータイに向けて自動的に一斉送信し、外出中や自宅で待機している防災担当者が受信確認のためのパスワードなどの応答信号を送り返すような仕組みを採用すれば、防災部門で待機するスタッフの数も少なくて済む。それとともに、誰に何時に連絡が取れたかもチェックしやすい。緊急通信を送るべき時が頻繁にあるわけではないので、回線を敷設しなくてはならない有線通信より設備投資が安くつくし、災害によって伝送回線が断になることも少ない。

 人が個々に電話をして連絡を取るのではないから、連絡漏れや連絡遅れ、説明間違いなどが減るというメリットがある。深夜や休日に自動製造ラインを動かす場合のトラブルに備えて会社に出て待機するなどの特殊勤務が減り、労務管理上のメリットもある出てくるだろう。トラブルが起きた直後、その状況に応じて、技術者や部品の手配などが敏速に対処できるから、休止時間も短くて済む。

 センサーベース・ケータイは、セキュリティシステムのほか、自動機の異常動作やコールドチェーンの冷凍車の温度管理、現金輸送車の位置や動態情報の伝送、商業施設や交差点などでの交通量の自動調査、廃棄物の不法廃棄や農地を荒らす動物の監視・・・・・など、応用範囲は広い。

 センシング内容によって、送信先を選択したり、複数の場所に送信したり、感知したデータを音声や文字に変換したりといった機能も考えられる。センサーベース・ケータイのモジュールには、機器の動作のログや自己診断のための情報、また画像データなどを送り込むための外部入力、あるいは処理手順を書き込んだソフトをダウンロードするための機能・・・・・なども必要となるだろう。

 いつ起きるか分らないことのために24時間、365日、人が監視をしているのは効率が良くない。設備の稼働率を上げるために無人で終夜運転をしたり、機器の集中管理による人員削減を急激に行なうと、トラブルを起こした際の対応が遅れてしまう。こういった場合に備えて、機器の状態を随時、あるいは異常事態の発生時に自動的にケータイへ情報を送り込んで連絡する体制を取っておけば、システムの最適化が実現しやすい。

 従来のIT化は、どちらかと言えばパソコンやネットワークの活用を中心に語られている。しかし、既存ネットワークの高度利用にも注目すべきだ。新たな通信手段を作ったり、利用料の低廉化、伝送容量の広帯域化といった高度化をするだけではなく、ネットワークの終端部分の技術開発や高度利用に対しても、もっとエネルギーを投じて議論が必要だ。市場が飽和してしまう前に、新事業分野の積極的な開拓を進めておかないと、この業界の将来はない。ここで指す“センサーベース・ケータイ”は、その一例に過ぎない。

 
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