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| 「インターネット投票実現への“遠い道のり”」 − 2001年8月20日 掲載 |
先月末に行なわれた参議院選挙の投票日の前日、全く知らない人から電子メールが飛び込んで来た。 開けてみると、参院選の立候補者の“応援演説”で、「このメールを受け取り、この魂に共感した方は、一人でも多くの人にメールを転送はもちろん、電話攻撃をして下さい」という趣旨の文章で始まっている。その夜になって、「先ほどのメールは公職選挙法に違反する恐れがあるので、直ちに削除して下さい」とメールが追いかけて来た。選挙運動も変わったものだ。 昨年11月に行われた第43代米大統領選挙は、フロリダ州での疑問票の再三にわたる手集計のやり直しのため、ゴア副大統領が「敗北宣言」をするまでに、投票日から5週間もかかるという異例の事態となってしまった。「投票用紙も開票方法も地域の自主性まかせ」――というアメリカ的民主主義を再認識したのではあるが、テレビで開票の様子を見ていて、とても“IT先進国”とは思えない気がしたのは、私だけだろうか。昨年3月のアリゾナ州で行なわれた民主党予備選では、テスト的に採用されたオンライン投票の利用率も90%を超えて、「さすがにアメリカは進んでるなぁ」と感じたあとだけに、ガッカリした。 今回の参院選には間に合わなかったが、電子政府の実現に向けて「インターネット投票」「e投票」に注目が集まっている。 インターネット投票にも一長一短がある。「政治への関心が薄い若年層を始めとした多くの人々の政治参加を高められる」「投票所へ行けない人も自宅や職場、病院、旅行先や出張先、軍の施設、洋上など離れた場所から都合の良い時に投票ができる」「無効票が減る」といったことが期待され、その結果として投票率が高くなるといったことや、投票事務に必要なコストや準備期間、開票集計時間が大幅に削減できる――などのメリットが挙げられる。 一方では、どの有権者がどの候補者に投票したかを第三者が知ることができるというプライバシー保護問題や、ディジタルデバイドを助長しないかという懸念、ハッカー攻撃などのセキュリティ上の問題、政治的圧力によって選挙関係者やサービスプロバイダのシステム管理者が、得票数や候補者名などの投票内容を改竄するなどの“八百長選挙”に結びつかないかという問題、締切り時間間近になって投票のためのアクセスが集中し、システムが麻痺状態に陥る可能性はないかという問題――というような短所もある。 オンライン電子投票の実現に向けて、公職選挙法の改正を始めとする法的な環境整備が進められているが、EC(電子取引)などとは異なった固有の課題がある。 第一の課題は、有権者の本人確認を厳密にしなくてはならないことだ。実は、現在の投票所で投票する投票用紙方式でも、仕組みとして、誕生日や住所を知っていれば、入場券を持っていなくても投票所の受付を突破できる可能性がある(決して、奨励しているのではないが)。また、決して許されないことではあるが、投票所へ行けない高齢の親や海外に赴任している兄弟になりすますなどして投票をすることも、仕組みとしては不可能ではない。先頃の米大統領のアリゾナ州での予備選では、有権者の認証のためのパスワードを郵送する方法が採られたが、これとて家族が勝手に開封すれば投票はできなくはない。しかし自宅など、立会人がいない場所でオンライン投票をするとなると、“なりすまし”を助長しかねないから、本人確認がますます重要となる。 二番目は「二重投票」の問題だ。例えば通信販売で、同じ人が同じ物を何回買っても代金を支払ってくれさえすれば問題にはならないが、選挙において二重投票は絶対に許されない。しかも、赤の他人が有権者になりすまして先に投票を済ませた後、正しい有権者が投票しようとして不正行為とみなされることなどもあってはならない。同じ有権者が2回以上投票したり、投票用紙方式とオンラインの両方で二重に投票することも避けなくてはならないだろう。 第三は、投票をした後のデータをシステム上から消去しなくてはならないという点だ。今のインターネットでは、自分のパソコンの中のほか、サービスプロバイダのサーバーの中など、随所に処理データが残されている。したがって、その人がどの候補者に投票したかを第三者が知り得る仕組みになっている。投票用紙を投票箱に放り込んだ瞬間、本人が口にしない限り他人には知り得ない現在の方法とは、この点で根本的に異なる。集計センターに確実に届いたことを有権者が確認した瞬間に、投票内容が端末を含めた全てのネットワーク上から完璧に「自動的に消滅する」ことを保証する必要がある。しかしこれは、実のところシステム的に難題だ。 筆者が気にする最後の課題は、投票の締切り時刻の点だ。不幸にして現在のインターネットは、日常生活に深く入り込むほど完成されたシステムとは言えない。先日、知人が私宛に送ってきたメールは、わずか10キロほどしか離れていない場所から発信して、着信するまでに約5時間もかかっていた。投票のための情報をインターネットを経由して所定の時間内に送信したからといって、集計センターに時間内に確実に届く保証はない。締切り間際になって投票しようとして、伝送待ちをしている間に時間切れになるという事態も考えられる。 6月11日付の当コラムで“時刻情報”の問題を取り上げたが、投票時間を過ぎたあと、自分のパソコンのタイマーを修正して締め切り時間より前に送信したように操作する者が現れるかもしれない。いずれにせよ投票の締切りは、“発信時刻ベース”にするのか“着信時刻ベース”にするのかを明確にしておく必要があるだろう。このインターネット特有の伝送上の問題については、何らかの対処策を講じておかなくてはならない。 こうして考えてみると、いきなり自宅や海外から、また洋上の船舶からでさえ投票ができるようにするのは危険で、当初は投票所のIT化を実現し、さらに駅や学校、集会所、郵便局、コンビニなどに端末を置く・・・・・というように徐々に拡大し、社会に電子投票を浸透させていく方法が順当だといえるだろう。「自宅でパソコンで投票する人は進んだ人。投票所で投票する人は時代に乗り遅れた人」という社会的なイメージができて、ディジタルデバイドの問題が表面化することも懸念されるから、じっくりと“ナラシ運転”をしながら導入するのが賢明だ。 ところで、インターネット投票を実現すると、一体誰が“得”をするのだろうか? 選挙事務に要するコストは削減できるとしても、コンピュータソフトや設備投資は膨らむから、有権者でもある納税者として“得”かどうかは、にわかに答えづらい。結局のところ、政党や立候補予定者にとって有利か不利かの“政治判断”で万事が流されてゆくというのが、“この世界”の常識なのだろうか。 そうしたことよりも、多くの人が投票所へ行かずに自宅などのパソコンを使ってインターネット投票するようになると一番困るのは、ひょっとするとマスメディアかもしれない。それというのも、「出口調査」ができないため、「当確」を打つ先陣争いがしにくくなるからだ。
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