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| 「米同時多発テロとメディアの役割」 − 2001年10月1日 掲載 |
さる9月11日の夜10時前(日本時間)に発生した米国同時多発テロ事件では、インターネットを始めとした各種の通信メディアが甚大な影響を受けるとともに、その大きな役割を改めて認識させることとなった。 テレビのニュース番組で事件の発生を知って、家族や友人、会社の同僚の安否確認や現地の状況把握のために、固定電話から国際電話を掛ける人が11日深夜から殺到した。このため翌12日の午前には、KDDIでは通常の20倍もの通話量となり、繋がりにくい状態となった。加えて現地近くのKDDIの通信施設への電源供給が停まったことから、自家発電に切り替えたものの装置がオーバーヒートしてしまい、一時的にサービスが中断してしまった。また現地の電話会社も、緊急用の通話を優先するために通話規制をしたり、報道を通じて電話を掛けるのを控えるよう呼び掛けた。 固定電話がパンクする一方で、交換機を使わないADSLやCATVによるインターネットの利用が急増した。現地の地下に埋設されている通信ケーブルが損傷を受けたため通信ができなくなったが、情報網が麻痺しないよう設計されている分散型ネットワークであるインターネットは、このような非常時でも通信網としての威力を発揮した。 米国では現在もページャ(ポケベル)が日常的に幅広く活用されているが、世界貿易センタービルの屋上に設置されていた基地局アンテナがビルとともに倒壊したため、そのサービスができなくなってしまった。 安否確認や業務連絡、情報収集では、電子メールやインスタント・メッセージが活用されるとともに、被害者の安否を書き込んだ臨時のサイトや、心のケアについて相談に乗ってくれるボランティアのホームページも開設され、災害に関連した各種情報のオンライン配信やデータベース化が進んだ。 一方で残念なことに、電子メールを使った募金活動で詐欺行為が発生したり、迷惑メールが急増したり、安否情報の掲示板に偽りの書き込みがされたという問題もあったようだ。報復に反対する日本の民間団体が、「ブッシュ米大統領や小泉首相にメールを送ろう」と一般市民に訴えるチラシにメールアドレスを印刷して駅などで配ったというから、チラシの世界も変わったものだ。 危機に対応するには、生の情報を幅広く収集するとともに、ニュースサイトのチェックやWebの検索をするのがてっとり早い。そのため、テロ事件に関するホームページやニュースのサイトにアクセスが殺到した。CNNはトラヒックを少なくするとともに、利用者の画面表示を軽くすることを考慮して、テロ事件以外の情報を削除したり、広告を減らしたり、画像情報を減らすといった工夫をした。 世界各国で事業展開をしている企業は、各国の安否状況を確認したり、会社としての対応措置の指示を行うのに電子メールをフルに活用した。米国に多くの事業拠点を持つある企業では、多数の行方不明者が出たことに対して哀悼の意を示す意味で、トップマネジメントが自ら電子メールを通じて「全世界の事業所で同時に黙祷をしよう」と呼びかけたところもある。現地の米国関係機関や日本企業協会、メディアからの問い合わせなども、即刻、日本の本社の所定の部署へ転送して、情報の共有化が図られた。NYの被害状況を入手したり全世界の事業所に対して迅速な指示ができるのは、電子メールによる国際情報網という文化があったからこそだ。 FBI(連邦捜査局)は、事件の全貌解明や犯人の特定に役立つ情報の提供を、電子メールで送るよう市民に広く呼びかけた。さらに犯人が交換したと思われるメールの内容を傍受して、分析して証拠固めを行っているという。 事件直後からマイクロソフトやアマゾンドットコムなどの大手のプロバイダーが率先してオンライン募金のサイトを次々と立ち上げ、全米の一般市民がこれらのサイトを通じて赤十字などの慈善団体へ寄付を行った。その結果、過去最大規模の寄付額となったという。この「ワンクリック募金」が好意的に受け入れられたのは、昨年の米大統領選挙での選挙資金集めで運営ノウハウが築かれ、しかも市民が理解していたという背景もある。 これらの状況をみると、95年の阪神淡路大震災の時と類似している点があるように見受けられる。当時はWindows95の出荷前で、現在のようにパソコンやインターネット、電子メールが一般家庭や企業の隅々にまで普及していなかった。しかし一部の大学生らが先駆的にインターネットを活用して情報の共有を図ったことから、災害復旧支援やボランティア活動におけるインターネットの威力を社会的に理解させるきっかけとなった。 日本の犯罪ではプリペイド式のケータイが使われるケースが増えているが、米国で10月に発売予定の“使い捨て型携帯電話”が、今後テロ事件などに悪用されるのではないか、と今から米国内で問題視され始めている。発信者を特定することが困難であるため、通信傍受法が施行されても意味を持たなくなる可能性があるためだ。 空港のセキュリティ・チェックが厳しくなって無用な時間を費やすという非効率化、ハイジャックの心配、不安定なフライトスケジュールなどから、出張を見合わせてテレビ会議システムで済まそうとする動きが出ている。米国で10年ほど前、エアラインのストが頻発して空の便が麻痺してしまい、会合の開催や国内出張が思うようにできなくなったことがある。 この時は一般企業のほか、ホテルチェーンなどが衛星を使ったテレビ会議システムを導入するなどして、急速に普及した。その後は、航空事情も落ち着き、テレビ会議への関心はやや薄らいでしまった。しかし現在、画像処理技術が改善されブロードバンドネットワークへの関心が高まり、通信料金も以前と比較して格段に安くなったという環境変化もあり、今回のテロ事件で再び見直される気運にある。 今回の同時多発テロ事件が世界を震撼させ、与えた影響は極めて深刻であり、今後の動きは予断を許さない。この3週間の報道を見ているだけで、インターネットが本領を発揮するとともに、危機下において激変する国際経済情勢の動向を一刻も早く掌握して非常時に意思決定するにあたって、これが極めて重要なコミュニケーション手段であることを改めて思い知らされた。また期せずして、ITの重要な活用事例であることを再認識させた。 不幸にして、甚大な被害をもたらす災害や事故、事件が、今後起きないとは断言できない。企業の格式を決定付ける評価基準として、新製品の開発技術力や財務体質の優劣だけではなく、今では危機対応力も重要な項目になっている。事件が起きてしまったあと、リスクを最小限に抑え、いかに早く平時状態に復帰し、その企業が社会的に認知され、最終的にはいかにして健全経営を行ったかで、経営者の手腕が問われる。そのためにも、今回の事件を契機に、組織内の意思伝達系統と災害や事故への備えとを今一度見直し、対応方法を周知し訓練を重ねておく必要がある。
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