![]() |
| 「監視社会の到来とインターネット」 − 2001年10月22日 掲載 |
都会の表通りを、気を抜いて歩けない世の中になってきたようだ。 イギリス全土には、監視カメラが政府の手によって設置されており、その総数は約100万台にも及ぶそうだ。特にロンドンの中心街では、目抜き通りの交差点や地下鉄の構内、駅のエスカレータ、航空機の搭乗口、商店街など、いたる所にカメラが取り付けられており、「5分歩くと1回はカメラで撮られている」とも言われる。 監視カメラの台数は増える傾向にある。またカメラの性能も向上し、リモコンで360度の方向転換やズームを使って、どこかのビルの奥の一室から昼となく夜となく、通行人を追尾している。ロンドン市内では撮られるのを避けるために、フード付のジャケットを着て歩いている市民が目立つのだそうだ。 さらにロンドンの一部地域では、カメラで撮った通行人一人ひとりの顔を自動的に認識して、指名手配中の容疑者の写真とコンピュータで自動照合するシステムも導入済みだ。町を行き来する一般市民の監視や犯人の検挙だけではなく、ゴミの不法投棄、麻薬の取り引き、誘拐犯の発見、未成年者の喫煙、酔っ払い、喧嘩、パーキング料金の未払い――など、監視の目的は幅広い。 これだけ四方八方から常時監視されると、「プライバシーの侵害だ」と反対の声が大きいと思うのだが、イギリスでは目立った反対の声は少ないという。先頭立って反対運動を起こすと、リモコンカメラで四六時中、監視されるハメになるのだからというのが、その理由なのだそうだ。 一方、日本でもビデオカメラによる監視の目は日を増すごとに拡充されている。さる6月に大阪で起きた小学校の児童殺傷事件を契機に、学校内に防犯カメラを設置して安全管理を強化する小学校などが増えてきた。京都の国宝・醍醐寺金堂では、年々増加する落書きに業を煮やして監視カメラを設置したものの、落書きは一向に減らない。マンションの入り口やエレベータ前、駐車場などにも防犯カメラを設置して、不審者の侵入やイタズラの防止、犯罪や痴漢の防止が行き届いて安心なことをうたい文句にしている物件が増えている。 銀行の窓口カウンター奥の天井から防犯カメラがぶら下がっているのは、現在では珍しくない。しかし以前は、「客を銀行強盗の犯人呼ばわりするのか?」といった悪い印象を客に与えるのを嫌って、銀行側が監視システムを導入するのをためらっていた。その後、銀行内での凶悪犯罪で行員が長時間軟禁される事件が起きたこともあり、そうも言っておれない状況になってきたのだ。今では、CD/ATMコーナの天井などに設置されたカメラが客の挙動を常に監視し記録し、その映像が保管されている。 犯罪が頻発している新宿の歌舞伎町地区にも、近く約50台の街頭監視カメラが設置されることになっている。東急車両製造は、電車内で起きた喧嘩や痴漢行為をカメラで撮影し、運転手が確認してハードディスクに記録するおいう「車内監視システム」を開発し、鉄道会社への売り込みを始めた。また幹線道路などに設置された“Hシステム”と呼ばれる高速走行抑止システムは、走行する車のドライバーの顔まで認識して記録する。 ある消費者金融の企業は、窓口カウンターで担当者が直接応対するのではなく、わざわざビデオカメラを介したり機械で接客する“むじんくん”“お自動さん”なるものを導入している。人と直接対面して意思疎通することが不得手な若者は、カメラを通じての応対の方が落ち着くようだ。 銀行などに設置された防犯カメラに慣らされ、また家庭用ビデオカメラが普及したこともあり、街頭の監視カメラが自分に向けられていることへの抵抗感が薄らいでいるのかもしれない。 先ごろ、米国で起きた同時多発テロ事件で、世界貿易センタービルへ旅客機で突入したハイジャック犯と思しき人物が空港の搭乗口を通る姿を、監視カメラが映像として捕らえ記録されていた。空港の監視カメラシステムは、今後さらにアップグレードされることになるのだろう。いずれは、航行中の機内の様子を地上で常時監視することになるに違いない。 天気や渋滞状況、混雑状況、駐車場の混雑状況などを監視しているうちは穏やかだが、個人が監視されるとなれば、プライバシー侵害の問題に行き着く。昨今のテレビを見ていて、公園を夫婦連れで散歩する人や台風で強風に吹かれて傘を台無しにされている人など、一般市民をアップで撮った画面を放送する例が増えてきたように思う。特に若者や子供にはカメラに向かっておどける人も多いが、個人的なことはそっとしておいて欲しい人も多いだろう。 人には“取材されない権利”もあるはずだ。あたりかまわず興味本位で撮影し、誇張した画面で断りなく全国放送するのは、報道機関としての倫理性を欠いているのではないか? 通常、街頭の監視カメラで捉えた映像は数日間で御用済みになるが、番組の中で断りなく個人を撮影して、その映像を面白おかしく放送して公衆の目にさらすのは、もっとタチが悪い。 さらに、当局が監視するだけではなく、アーケードでウインドショッピングをしている自分の姿を、異国の見知らぬ人がインターネットを通じて、ジィッと観察しているかもしれない。インターネットが進歩したおかげで、なんとも住みにくい不気味な監視社会になってしまったものだ。 「キミが、いつ、どこを、だれと歩いていたかが克明に記録されているかもしれない」と聞いて、顔色が変る人もいるだろう。私も、外出するときには、サングラスを掛けて、付けヒゲをして変装することにしよう。
|
| HOME / トップへ戻る / 新しい記事へ / 過去の記事へ |